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アフリカへサファリに行く

ンゴロンゴロ編(3)

アフリカへサファリに行く

ンゴロンゴロ編(3)

動物たちの楽園を出る

「そろそろクレーターを出たほうがよさそうだ」
私がシャイなクロサイを探していると、シンバが時計を見ながら言う。
「飛行機の時間は?」
ここを出るには、聳え立つクレーターのふち、高さ600メートルの急坂を登らなくてはならない。ジープでなければとてもできそうにない芸当だ。

シンバの車がガタガタの急坂をえっちらおっちら登っていく。私は振動に耐えるため、ハンドルバーを強く握る。そして後ろを振り返る。クレーターがみるみるうちに遠ざかる。ライオンの川辺、ハイエナの巣穴、ヌーの草原、カバの池、ゾウの森。どんどん小さくなっていく。川は一本のか細い線へ、池は小さな丸い穴、森は濃い緑のかたまりへ後退する。少し走ると、それらはもう人の目で見分けるのがむずかしい。

「ほら、ここから道路になるよ。ゾウもときどきこのルートをたどってクレーターを出て行くんだ」

車がぐんと加速する。舗装された坂道へ入ったのだ。
眼下の木々も、すでに黒いドットにしか見えなくなった。こうして見ると、生き物の気配はまったく感じられない。あらゆるものが動きを止め、静止しているみたいに見える。

やがてクレーター全体が、かすみがかった輪郭を浮き上がらせて、1枚の雄大な絵のように立ち現れる。

私たちは穴の外へ出てきたのだ。

あとはきわめて現実的な手続きが進んでいった。サファリの起点地となったアルーシャの町までそのままジープで移動して、ツアー会社の事務所に立ち寄り、身の安全を帰還をもって証明し、求められた書類の下面にサインする。

ガイド兼ドライバーのシンバさんとはここでお別れ。
たっぷりと握手を交わし、感謝を込めてチップを支払う。こうして楽しく戻ってきたのも、すべて彼のおかげなのだ。実力のある、感じのいい、情熱的なガイドさん。私は彼にさよならを言う。サバンナでのチームワークが無事解かれたことをお祝いする。