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アフリカへサファリに行く

マニヤラ編(5)

アフリカへサファリに行く

マニヤラ編(5)

ロッジに泊まる

夕方。マニヤラ湖国立公園を出て、近隣のロッジへと移動する。 そこもまたサバンナだ。

土埃の舞う砂利道を、マサイの牛たちが横切っていく。

このロッジは、いくつものコテージ(小屋)がまるで小さな集落のように寄り集まってできている。中央には受付用のコテージがあり、それを取り囲むようにして宿泊用のコテージが茂みの間にぽつぽつと並んで見える。旅行客はグループごとにコテージがあてがわれ、夜になると食事用のコテージに客たちが集まってくる。
寝室のベッドには、蚊除けの網が下がっている。

「陽が落ちたら、絶対に一人で外に出ないでください」
宿のスタッフが、暗くなったら勝手にあたりを歩くのは禁止だからと念を押す。
「これまで何か問題が起こったことはありません。でもここはサバンナです。夜歩き回るのは危険です。もしあなたが離れたところに行ってしまったら、何が起きるかわれわれにもわかりません」

ここで私はかぎりなく無力だ。

陽が暮れて、食事用のコテージへ移動する。ふと、一匹の野うさぎが目の前を駆けていく。彼女は蟻塚の手前で立ち止まり、二本の後ろ足でポーズをとる。危険はないか、注意深くあたりを見回しているようだ。
遠くの平野の真ん中に、ヌーの群れを確認する。もちろん野生の。その姿は西の空の夕日を受けて、アカシヤの木と木の間を埋める黒いドットのように映りこむ。彼らは今夜、あそこで眠りに落ちるのだろう。

たとえ隣のコテージへ行くのにも、日没後はエスコートが必要になる。暗闇をいっしょに歩いてくれるのは、宿に雇われたマサイたちだ。
「マサイは勇敢な種族だよ。サバンナでどうやって危険を避けるのか、彼らはちゃんと心得ている」

もし東京やロンドンで暮らしていたら、自由に外出できないことをひどく不便に感じるだろう。でも、ここではあらゆることがシンプルだ。
私たちは暗くなったら眠りにつく。そしてふたたび朝日とともに目を覚ます。

朝がきて、私はロッジのまわりをふたたび歩く。
昨夜のヌーが目を覚まし、すでに移動をはじめているのが見て取れる。見渡すかぎり何もないので遠近感がつかみにくいが、遠くにそびえる崖地の壁が、この土地がグレート・リフト・バレーの底にあるのを思い出させてくれる。

ヌーの群れがゆっくり移動をつづけている。木の上からは鳥たちの鳴き声がいっそう大きく聞こえ出し、そのバリエーションがどんどん豊かになってくる。

そろそろ部屋に戻ろうか。
私はそのとき背後になにかの気配を感じる。じっとこちらを見つめるような視線。
こんなに早く、だれだろう?
振り返ると、そこにはマサイの雄牛が一頭、まるで私を迎えるようにそっとひとりで立っている。