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アフリカへサファリに行く

マニヤラ編(4)

アフリカへサファリに行く

マニヤラ編(4)

草を食むゾウの一団

しばらく行くと、4台のサファリカーが列をなして停まっている。ここでは車の渋滞がふだんと異なる意味を持つ。それは人の興味をそそる生き物がいる印にほかならない。

アフリカゾウ。
いったい何頭いるのだろう。1、2、3、と数えてみる。見たところ7頭だが奥にもまだ隠れていて、木々がかすかに揺れている。草を食べているのだ。

アフリカで大きなゾウは重さ6トンにおよび、赤ちゃんでも100キロ近い。地上では文句なしに最大の哺乳類だ。その巨体を支えているのが草や木の根や果物というわけだから、彼らはそれを大量に摂取しなければならない。大人のゾウは1日に150キロの食べ物を必要とするのだとシンバが解説してくれる。

いま、ほんの数メートル先にいるゾウたちが、わっしわっしとその鼻で草をつかみ、器用に口もとへと運んでいく。運んではもぐもぐ、運んではもぐもぐ、繰り返し。あれはたぶん母親だろう、大きなゾウが長い鼻で子ゾウのお尻を押している。
「ほらほら、あっち。頑張って歩きなさいね」

ゾウの群れが草を食む。その光景はいかにも平和に見えるのだが–––––活躍中のその鼻は非常な力を持っていて、重さ300キロのまで持ち上げられると言われている。相撲力士が束になってもかなわない1本のゾウの鼻。「鷲掴み」という言葉があるが、ゾウたちも負けてはいないという気になる。顔の横では、巨大なうちわのような両耳がパタパタとはためいている。ゾウは人間のように汗をかいたり、犬のようにハアハアと息をしたりしない。その代わり耳を動かすことによって体の熱を逃がしている。

もう1つ、ゾウについて興味深いことがある。彼らは他のゾウの問題や苦しみを認識し、それに応えている可能性があるという。それを共感能力と呼べるかは定かではないものの、科学者たちはこのようなゾウの行為をたびたび目撃してきた。たとえば、体に矢を刺された他のゾウから矢を引き抜いて、負傷箇所に砂をかけてやるゾウ。死にかけている他のゾウを、鼻と象牙で持ち上げて支えてやるゾウ。小さなゾウが傾斜を登るのを助けてやる大人のゾウ……。

「ゾウはとても不思議な生き物だよ」シンバの声が聞こえてくる。
ほんとうに。彼らは不思議な生き物だ。
ゾウだけではない。野生動物、生き物たちの生命は多くの謎に満ちている。
野生性が排除され、高度な文明の支配するヒトの世界で暮らすうち、私はいつの間にかそんなことさえ忘れてしまう。