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「日本は規制がはげしすぎる」「政府の対応がおわってる」「これからだと思ったのに」……

この数ヶ月、Airbnb(エアビー)などいわゆる民泊をめぐって、日本の規制ぶりを嘆いたり批判したりする声を、ちらほら耳にすることがあった。

とりわけ2018年6月に施行された「住宅宿泊事業法」(民泊新法)のインパクトは大きかったようだ。
この法律は、急増する民泊の安全面や衛生面がまだ確立されていないこと、また騒音やゴミ出しなどによる近隣とのトラブルが問題になっていることなどを背景に、住宅を民泊として提供する側、それを管理する側、仲介する側にたいして一定のルールを定め、健全な民泊サービスの普及をはかるために成立したと言われているが、いざ民泊を始めよう/継続しようと意気込む人にとっては、フタを開ければ規制ばかりで、「わが家のエアビー計画が頓挫しそうだ」とか、「ようやく扉が開くと思った民泊ビジネスの期待がしぼんでしまった」とか、疑問や不満、怒りや落胆の反応をまわりからもポツポツと聞いてきたのだった。

そもそも民泊新法の直前に、観光庁の通知を受けたAirbnbが約4万件の違法民泊を全件削除したことは前代未聞のニュースだったし、エアビー側はエアビー側で、予約をキャンセルさせられた顧客にたいして全額返金やクーポン手配のために11億円を用意して緊急対応したことも異例だったと言われている。

これだけ聞くと、たしかに民泊をめぐる国の規制のつよさや保守性が目がつくのかもしれない。「これだから日本は」なんて声も漏れ聞こえてくるかもしれない。

けれどもいっぽう、規制がないとどんなことが起きるのか、これまで世界でなにが起きてきたのかは、あまり多く語られてこなかったような気もする。

おそらくもっとも有名なのは、バルセロナのケースだろう。

Photo: Erwan Hesry

バルセロナはAirbnbの巨大な集積地と化したと言われている。

中心部には、現地のアパートメントに「暮らすように滞在したい」観光客が、世界中から押しかけるようになって久しい。
アパートメントの大家たちは、いまや従来の賃貸に出すよりも高い値段で観光客を泊めることができる。中心部はあらたに建物を建てることが困難なので、かぎられた数の物件に希望者が殺到する。供給が需要に追いつかないから物件の価値は上がり、ひと晩あたりの民泊代が高騰する。
また、大家たちはこれまでの賃貸契約が更新になるタイミングで、民泊並みの(より高い)賃貸料を借り手に提示することができる。こうして物件の賃貸もどんどん吊り上っていく。
中心部の賃貸は、もはや普通のバルセロナ市民には手の出せない価格帯に達しているため、若い市民の多くは中心部をあきらめて郊外へ移って行った。住民の不満や怒りはつのるばかりだ。

しびれを切らしたバルセロナ行政は2015年に、民泊ライセンスの新規発行を中止した。このライセンスなくしては民泊は違法となる。
また2016年にも行政は、Airbnbに登録された物件3000件に罰金を課し、2200件を削除したほか、違法物件を広告したことでAirbnb(企業)にたいして60万ユーロの罰金を求めた。これも異例のできごとで決着はまだついていないという。

さらに驚かされるのは、これら民泊の物件を所有するのがごくひと握りの「ホスト」であるというニュースだ。
あるエアビーの「ホスト」は、バルセロナに204もの物件を所有しており、ハイシーズンには1日あたりの収入が€37,721 (約470万円)になるという。また、バルセロナでトップ10に入るホストたちが管理する物件数は合計996で、民泊プラットフォームからの収入の合計は、1日あたり150万ユーロ(約1.9億円)にのぼることが判明した。これらの「ホスト」はヴァケーション・レンタル・マネジメント会社と呼ばれており、大家たちから物件を預かって民泊に貸し出す管理業務などを行なっているというが(詳細)……

バルセロナはおそらくもっとも極端な事例の1つだけれど、こうした動きはアムステルダムやベルリン、パリ、ロンドン、ニューヨークなど世界の国際観光都市で起きており、普段のニュースを見るかぎり民泊をめぐる話題は事欠かない。

Photo:Jace & Afsoon

民泊はもはや衛生の確保や近隣への迷惑/トラブル(うるさい、ゴミ出しを守らない)など生活上の話を超えて、市民の住宅問題やグローバルな資本主義/ツーリズム/格差といったテーマにおよんでいる。そしてこれは、昨今世界を揺るがしている移民問題にもつながっている。

ちなみにロンドンでAirbnbのホストになるなら、年間の貸し出し制限は90泊。これは日本の規制(180泊)の半分にすぎない。そこだけを取り上げて、ロンドンの規制は厳しすぎると言えるのだろうか?

Photo: Luca Micheli

ロンドンではいっとき外国人の超富裕層による不動産投資が加熱し、中心部の高級住宅地には夜になると電灯もつかない真っ暗な物件が目立つなど、ただでさえ住宅不足の社会に大きな影を落としてきた。
いま中心部の高級住宅地でAirbnbを検索すると、もはや生活感のかけらもない高級ホテルのような物件がずらりと並んでいるのに気づくだろう。
ロンドンに住む若者にとって、かつて上の世代が当たり前のように経験してきたこと、つまり社会人になったあとは自分の力で物件を借り、またのちに購入するということが、なかなか難しい状況にある。キャリアを積んで収入が上がっていくのにともなって、物件の「はしご」をのぼっていくことは、いまとなっては至難の技だ。

Photo: Toa Heftiba

あたらしい革新的な発明が、既存の業界や人びとの暮らしを大きく変えようとするとき、その波に乗れる人と乗れない人が出てくるのは、ある意味では世の常だろう。けれどもその差がどんどん広がって、どう足掻いても埋められないほど固定化したとき、社会を根底から揺るがすような象徴的なできごとがどこからともなくやってくる。英国のブレグジットでそのことを実感したのを思い出す。

こんなふうに書いていると、まるで自分が保守的みたいな印象をまねくのかもしれないけれど、正直言って実態はむしろ逆だ。個人的にはAirbnbを数年にわたって利用しており、ゲスト側もホスト側も経験する機会があった。むしろどちらかと言えばこのサービスの恩恵を受けてきたほうなのだった。

だからこそ、あたらしいサービスのベネフィットを受けるということは一体どういうことなのか、サービスの享受者がいるということは、その逆の作用を受けた人もいるはずなのだということを忘れないようにしたいと思う。